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私だからできる仕事を求めて。維和島へ移住
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星野 真理さん
地域おこし協力隊
熊本への移住者の暮らしのリアルに迫る「熊本暮らしのリアルとホンネ」。今回は、他の誰でもない自分だからこそできる仕事を求め、上天草市の維和島に移住した星野さんにお話を伺いました。
維和島:大矢野島と橋で結ばれた維和島は、温暖な気候を活かした柑橘類の栽培や車エビの養殖業などが盛んで、海と山の幸に恵まれた島です。古墳群や約6500万年前の地層がむき出しになった外浦自然海岸など歴史を体感できるスポットが数多く残っています。(上天草市ホームページより)
ほかの誰でもない、私だからできる仕事を探して
前職では、東京のスポーツアパレル系の会社で8年ほど働き、物流やサプライチェーンの構築を担当していました。当時は埼玉に住んでいたので、都内に行くためには1時間以上かかったのですが、満員電車にはどうしても乗りたくなかったので、出勤時間を朝早くにズラして、その分早く帰る形で働いていました。会社が出勤の時間に対して柔軟だったことは、幸運でしたね。
そこから上天草市へ移住するのですが、都会での暮らしが嫌いだったわけではなく、仕事への考え方に変化があったことが大きな理由です。最初の頃はいわゆるベンチャーのような形で、どんな業務でもがむしゃらに対応して、新しいことにもどんどんチャレンジする環境でした。本当に毎日忙しくて、予期せぬことも起こりましたが、それが社員の団結につながったり、私のやりがいでもありました。
ただ、会社が大きくなっていくにつれて、私が担当する業務も少しずつ変わり、決まったことをこなしていく内容へと変わっていったんです。そんな中で、「この仕事って、私じゃなくてもできるんだろうな」と感じるようになり、次のステップを見据えるようになりました。
「私がやりたいことは何なのか」「どこで働きたいのか」と考えているうちに、母の故郷である上天草市の維和島での生活を考えるようになったんです。
維和島へは小さい頃から遊びに行っていたので、私の好きな場所のひとつでした。ただ、いま維和島という場所では、どんどん人口が減ったり、元々あったお店が無くなったりと、時間とともに状況が変わっていたのです。
地元の人とお話しすると、「ここは魅力がないから誰も来ないんだよ」と、どこか諦めの言葉を口にされるのですが、それとは反対に、私にはどんどん魅力が増していく場所に思えていました。
自然豊かで、おいしい食べ物も豊富。地域ならではの魅力的な人もたくさんいて、少し話すだけでも大きな刺激をもらえる。それなのに、地元の人たちは、自分たちの魅力に気づいてなくて。このままだと、維和島の活気がどんどん無くなってしまうという危機感から、「私ができることはないのかな?」と、勝手な使命感が生まれたんです。
維和島での暮らしを検討している中で、地域おこし協力隊という制度があることを知りました。周りに私の活動を応援してくれる人がいたこともあり、「それならもう移住してしまおう」ということで、移住を決めました。
「とりあえず、あの子に声をかけてみようか」と思ってもらうこと
いざ維和島に来たものの、はじめの頃は結構ストレスを感じました(笑)
私自身、小さい頃から何度も来ている場所ではあったのですが、聞き取れない言葉がたくさんありました。単純に方言を理解できないということもありますが、その言葉の背景がわからずに、意図が理解できないことも多かったんです。それで、ちょっと地元の方を怒らせてしまうこともありました。
どこもそうだと思いますが、地域には、地域ならではの共通認識があるんですよね。その地域にとって当たり前のことが、来たばかりの私にとっては当たり前じゃない、そんな小さなズレがたくさんありました。そんな状況で、「維和島のためにこんなことやりたいんです!」って言うのは、私としても順番が違うなと感じていました。
だから、まずは顔を覚えてもらうところから始めることにしたんです。維和島には、まちづくり委員会という地域おこしを目的とした団体があり、そこの方達を通じて地元の人たちと交流を楽しむことにしました。
ひたすら地元の方と話しているうちに、お家のご飯に誘ってもらったり、イベント運営を手伝ったり、踊りの練習を一緒にしたこともありましたね。私としても積極的に顔を出すことは楽しかったですし、地元の方もとてもウェルカムだったので、少しずつ皆さんの日常に溶け込めるようになってきました。すると、イベントのときでも、何かで集まるときでも、「とりあえず、あの子にも声をかけてみようか」って思ってもらえるようになったんです。
関係性が深まると、地元の方が悩み事を話してくれたり、逆に私がやってみたいことを話したり、そんな会話が自然と生まれるようになりました。
今でも、言葉が分からずに15分くらい何を喋っているのか分からないこともありますが、とても温かい雰囲気で、楽しくて、いつもほっこりしています。
維和島には地元の人もあまり来ない、だから面白い
いまは、地域おこし協力隊として維和島を盛り上げるために、いろいろな場所から維和島や上天草市に来てもらい、地元の方と交流してもらうことを目指して活動しています。
例えば、多くの人に維和島へ来てもらうためには、宿泊施設をはじめ、楽しめるようなスポットが必要です。そのために、まずは空き家を活用して、滞在できたり、食事を楽しめたり、さまざまな体験ができる場所を用意しています。すでにいくつかの空き家を使わせてもらっていて、DIYをしたり、ツアーを考えたり、維和島に訪れた人が楽しめるように日々模索しています。
それとは別に、維和島へ来てもらうための活動も欠かせません。いきなり「維和島へ来てください!」と言われてもハードルが高いと思うので、まずは維和島や上天草市の魅力のひとつでもある「食」から、地域を知ってもらうための活動を始めました。
旬の食材や名物をSNSで紹介したり、通販でも購入できるように準備したり、地元の食を楽しんでもらうための取組みを行っています。最近ではキッチンカーでの移動販売も始めて、ゆくゆくは東京のイベントにも出店できるといいなと思っています。
維和島は橋がかかっているので、来ようと思えばすぐに気軽に来れるのですが、島の近くに住む人ですら「維和島には行ったことがない」という声が多いんですよ。小さな島ですが、景観がとても綺麗で、面白い人もたくさんいて、それなのに来る人は少なくて。魅力的な場所なのに、多くの人には知られていないので、私にとって維和島は秘境みたいな場所なんです。
お店が少なくなり、旅館が閉まったりと、いろいろなものがなくなっている現状ではありますが、それを逆手にとった取組みができると、維和島は大きな可能性があって面白い場所なんじゃないかと思っています。
自然に身をゆだねると、安心感が生まれた
私は維和島での暮らしが肌にあったので、とても快適に暮らせています。
東京にいた頃は、出勤とか交通機関とか、全部時間が決まっていて、自分がその時間に合わせて生きているような感覚でした。大雨でも、雷が鳴っていても、気持ちが折れながら決まった時間どおりに会社へ通っていました。でも維和島に来てからは、健康とか季節とか、自然の流れに身をゆだねて暮らせているんです。天気が悪いから、家でできることをやるみたいなときもあれば、夕日を見てほっこりしたり、自然にゆだねることで身も心も安心感が生まれ、「この生活が肌にあっているな」と感じています。
ただ、気軽に物を買えたり、ネオン街が好きな方にとっては、維和島よりも絶対に都会の方が合っているとは思います。
都会も地方も、どちらにも魅力があって、合うか合わないかも人によって違う。だからこそ、肌に合う場所も自分自身で感じて選ぶことが1番大事だと思うんです。そのためにも、気になる地域があれば、一度足を運んでみることをおすすめします。ちょっと遊びに行ってみるだけでも、地域の空気感はわかります。
あと、移住に興味があるからといって、100%そこに寄せる必要もないのかなって。私自身もはじめは東京との二拠点生活でしたし、移住した今だって、東京に遊びに行くこともあるんです。だから、自分の触れたいタイミングで、自分にあったやり方で関わっていくことがいいのかなと思います。
目指すのは観光地ではなく、いろんな人と一緒に活動できる流れを作ること
維和島でやりたいことはたくさんありますが、いろんな方が出入りしながら、化学反応を起こしていける流れを作りたいです。
観光みたいな形だと、島の人たちがもてなして、その一回きりで関係が途絶えてしまうので、継続的に維和島に来て、一緒に事業やイベントをやりたい人が増えてくると面白いなと思います。
さらには、維和島の人も待っているだけではなくて、私たちからも外に出て、いろいろな場所で交流し、維和島に戻ってくるような流れができれば、地元の良さを残しつつ、どんどん進化していけるかなと思っています。
いろいろな人たちに維和島で活動してもらうし、私たちもアクティブに出入りしていく。そうやって他の地域の人たちと関わると、自分たちの魅力や課題も再発見できると思うんです。そういったことを繰り返して、維和島をもっと面白い場所にしていければ嬉しいですね。